熊野の地には、神々の息吹が漂う神社が点在している。知る人ぞ知る、ローカル神社巡りはいかが?
神社には、そこに住まう人々の歴史が息づく。木陰の中にひっそりと佇む鳥居をくぐり、誰もいない境内に足を踏み入れた途端、日常の喧騒はどこか遠いものに感じられる。
熊野の地には、神々の息吹が漂う神社が点在している。今回は三重県南部の小さな町、御浜町(みはまちょう)の神社を6ヶ所ご紹介。これらの神社は全て、地元の人しか知らないようなローカルな場所。観光客の多いメジャーなスポットとは一味違った出会いがあなたを待っている。
三重県御浜町が位置する“熊野エリア”とは、紀伊半島南部(和歌山県、奈良県、三重県の3つにまたがる)を総称した名である。
平安時代、当時の都であった京都から簡単に近づくことのできない場所だった熊野。“よみがえりの場所” として知られ、自身の浄化を目的に後鳥羽上皇をはじめ、皇族も幾度となく徒歩で熊野を目指した。
熊野の神社で代表的なのは熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社で、熊野三山と呼ばれている。熊野三山を含む熊野古道(正式名:紀伊山地の霊場と参詣道)は2004年に世界文化遺産に登録され、多くの観光客が訪れている。
熊野古道伊勢路は江戸時代以降、伊勢神宮の参拝を終えた旅人や、西国三十三カ所巡礼の旅人たちが熊野を目指して歩いた庶民の道。全長約170km、ツヅラト峠や馬越峠のようなダイナミックな景勝地のほかに、日本最古の神社である花の窟神社(三重県熊野市)をはじめとするパワースポットも見所だ。
三重県南部に位置する御浜町は、太平洋に面し温暖な気候に恵まれた「年中みかんのとれるまち」。自然豊かでみかん畑の広がるのどかな町は、車で20-30分もあれば町の端から端を回れる、コンパクトな町だ。
海沿いには、熊野古道伊勢路のひとつ、海の巡礼道である「浜街道」と全長約22kmの七里御浜海岸。
山の巡礼道としては、横垣峠・風伝峠があり、いずれも比較的歩きやすいルートとして親しまれている。
そんな海と山に面した小さな町で、神社巡りをする魅力とは。
有名な観光地ではないことこそが、”まさにローカル”な神社の魅力。自然の息吹と人々の思い、歴史を紡いできた地域の神社の中で、誰にも邪魔されず、ゆったりとした時間を過ごせる。
1. 引作神社
七里御浜ツーリストインフォメーションセンターから車で約12分。紀伊半島随一の大きさを誇るご神木の楠は、三重県の天然記念物であり、新日本銘木百選にも選定されている。ひとたび訪れれば眼前に迫る巨木のパワーは圧巻。大楠を見上げると、何本にも分かれた太い幹の先に鮮やかな緑色の葉が茂り、まるで大楠に包まれているような感覚を覚える。
かつて神社合祀の進む中、和歌山県田辺市出身の植物学者・南方熊楠によって伐採を免れたんだとか。
以降、長きにわたり大楠は大切に守られ、人々が暮らす集落を見守ってきた。そして地域の人たちも、この大楠を大事に祀っている。
▼「引作神社」地図
2. 阿田和神社
御浜町阿田和地区は、七里御浜ツーリストインフォメーションセンターや、道の駅も位置する海沿いエリア。ここは元々漁師たちが多く住む町だった。
阿田和神社は、道の駅から車で約5分。尾呂志川沿いに建つ、地元の農業・漁業と商業の信仰を集める神社。
車通りの多い国道42号からわずかな距離だが、境内まで来ると川の流れる音と鳥のさえずりが迎えてくれる。
阿田和神社の創建は約880年前。豊作や豊漁、地域の平穏を祈願する例大祭は850年以上の歴史があり、作物を奉納する儀式や巫女による舞と言った神事が執り行われる。毎年4月の第2日曜日に、豊作•豊漁と平穏を願う春の阿田和神社例大祭が開催される。
▼「阿田和神社」地図
3. 尾呂志神社
風伝おろしや、日本酒「颪」で知られる、山間部にある尾呂志地区。
国道311号線から中に入った道に入っていくと、稲田を背景に鎮座する大きな鳥居が見えてくる。尾呂志神社の入り口だ。
鳥居をくぐり階段を下りていくと、川の流れる音が次第に大きくなってくる。
橋を越えた先に姿を現すのは、鬱蒼とした木々に覆われた境内。
すぐそばには尾呂志川が流れ、6月でも川遊びを楽しむ地元の人の姿もあった。川の水はとても冷たく、底まで見えるほど透き通っている。
▼「尾呂志神社」地図
4. 折山神社
四方を山に囲まれた、棚田の美しい阪本地区。熊野古道伊勢路・横垣峠と風伝峠の間にある集落だ。
集落全体を見渡せる山のふもとに、ひっそりと佇む折山神社。
拝殿の左右に立っている石灯篭には、川や農耕の女神である弁財天が刻印されている。「天保八年」の記述が残っており、折山神社の200年近くの歴史を物語る。
石灯篭はその昔、庄屋の小原源七郎が紀州藩を動かし、鷹ノ巣山でため池を完成させた記念に建てられたとか。
折山神社は、熊野古道伊勢路・横垣峠登り口から徒歩5分。熊野古道歩きの道中に立ち寄ることもおすすめ。
▼「折山神社」地図
5. 原地神社
山間部の神木地区は、平安時代に京都・大原からやってきた原七家(はらしちけ)がひらいたと言われる集落だ。その中でも奥まったところにある原地神社は約250年の歴史があり、樹齢数百年の大杉や梛の木が鎮座していて、ひっそりとした雰囲気の中にも畏敬の念を感じる場所だ。
鳥居のすぐ脇に「裏参道」と書かれた看板があり、表示に沿って進むと川が流れている。
▼「原地神社」地図
海と山の中間に位置する上市木地区。
八幡神社の正面には棚田が広がり、8月上旬の収穫前には金色に染まるという。
鳥居の奥には檜の木が。下をくぐって奥に進むと一気に体感気温が下がり、葉を揺らすザー…という風の音と、鳥のさえずり以外は何も聞こえない。
▼「八幡神社」地図
七里御浜に面するみかん畑に囲まれた町、三重県御浜町。燦々とそそぐ日差しが照らすのは、青々とした木々や田んぼに、透明度の高い清流。各地域に根ざす、ローカルな神社たち。自然と信仰のパワーを感じられる、おすすめのスポットだ。
大勢の人が集まる観光名所とは一味違う、静けさに包まれるローカルな熊野体験を味わってみるのはいかがだろうか。
御浜町内での神社めぐりは、自転車で回るのもおすすめ。海の潮風や木々の香りを感じながらサイクリングすると、心身ともにリフレッシュできます(レンタサイクルの詳細はこちら)。
サイクリングで上市木・八幡神社を巡る↓
観光する
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数多くの史跡が残り、海を一望できる熊野古道伊勢路のルート