世界遺産登録から20年の節目を迎えた熊野古道
2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録され、2024年で登録から20周年を迎える「熊野古道」。平安時代の頃から歴代の法皇や上皇が百余度熊野御幸されたのをはじめ、身分に関係なく多くの人が熊野を訪れた様子は「蟻の熊野詣」と例えられたほど。
京都や大阪、和歌山や伊勢から熊野三山を詣でる参詣道には樹齢800年を超える大木や石畳が敷き詰められた道など、古の魅力がたくさん。本記事では、熊野古道とはどういうものなのか、参詣道にはどういうルートがあるのか分かりやすくご紹介します。
周辺のおすすめスポットもいくつかご紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
熊野古道とは、熊野三山と呼ばれる熊野大宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社、そして、那智山青岸渡寺を詣でる参詣道のこと。熊野三山を訪れることで前世から現世・来世の安寧を得られるとされ、平安時代から多くの人が熊野古道を歩きました。
熊野古道には伊勢神宮から熊野三山を目指す参詣者が歩いた「伊勢路(いせじ)」。田辺市から東に分岐する「中辺路(なかへち)」。高野山と熊野本宮大社を結ぶ「小辺路(こへち)」。「吉野・熊野」と熊野三山を結ぶ修験道信仰の道「大峯奥駈道」。紀伊田辺から海岸線を歩く「大辺路(おおへち)」。京都・大阪と熊野を結ぶ「紀伊路」など6つのルートがあります。
熊野三山と熊野古道は、「紀伊山地の霊場と参詣道」としてユネスコの世界遺産に登録され、2024年は世界遺産登録から20周年の節目の年にあたります。
「熊野三山」とは、熊野大宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社のこと。それぞれの神社の特徴と見どころをご紹介していきます。
熊野本宮大社は、熊野三山の一つで、かつて「熊野坐神社」と呼ばれていた神社。杉木立に囲まれた158段の石段を登った先にある社殿は桧瓦葺と白木造りの落ち着いた雰囲気で、平成7年に国の重要文化財に指定されています。第三殿に祀られている主祭神のスサノオノミコトから順番に、5つの社を参拝します。元々、熊野川・音無川・岩田川が合流する中州に能舞台などを含め、現在の8倍の規模を誇る社殿がありましたが、明治22年の大洪水で被害を受けたことから明治24年に上四社が現在の地に移されました。現在、大斎原には高さ34mの日本一の大鳥居があり、中四社と下四社、境内摂末社が祀られています。
熊野本宮温泉郷は、熊野本宮大社の麓にある温泉郷。1,800年以上前に発見されたという日本最古の「湯の峰温泉」と「川湯温泉」「渡瀬温泉」の3つの温泉があります。
「湯の峰温泉」には、世界で唯一世界遺産に登録されている「つぼ湯」があります。「つぼ湯」は日によってお湯の温度が7回変わることから「七色の湯」とも呼ばれ、「小栗判官照手姫物語」の伝説が残ります。「川湯温泉」は、熊野川の支流である大塔川にある温泉。川原を掘るとお湯が沸き出るため、自分の好きなところで入浴を楽しめます。「渡瀬温泉」は、湯の峰温泉と川湯温泉のほぼ中間にある比較的新しい温泉。西日本最大の露天風呂と貸し切りの露天風呂があるほか、キャンプ場やバンガローといった施設が充実していることから、アウトドアを楽しむ人達にも人気です。
熊野速玉大社は熊野速玉大神と熊野夫須美大神の夫婦神を主祭神とする大社。鮮やかな朱塗りの社殿は景行天皇の時代に造営されたもので、境内には天然記念物に指定されている「ナギの木」がありますが、これは、平清盛の嫡男である平重盛が植えたとされるもの。樹齢約1000年といわれ、幹の空洞部分を潜り抜ける「胎内くぐり」が有名です。社に保存されている平安時代から伝わる熊野速玉大神と熊野夫須美大神の夫婦神像をはじめ7体の御神像は、国宝に指定されています。
熊野那智大社と那智の滝、大門坂は、中辺路の一部で約2.5㎞の区間。那智大社は全国に約4000社ある熊野神社の総本宮で、上・中・下の3社から成ることから「熊野三所権現」と呼ばれたり、十二殿に御祭神が鎮座することから「熊野十二社権現」とも言われます。社殿は463段の石段を登ったところにあり、参道からは山々の絶景を観ることができます。
那智の滝の近くにあった社殿を現在の位置に遷座したのは約1700年前のこと。朱塗りの美しい本殿と拝殿が印象的な神社です。本殿は、第一殿から第六殿まで国の重要文化財に指定されていて、主祭神を祀っているのは第四殿。
第五殿では八咫烏の「烏石」を観ることができます。また、拝殿の右側には、平重盛公が植えたとされる樹齢約850年の大クスがあり、樟霊社として祀られています。樟霊社では、願い事を書いた絵馬や護摩木を持って幹に空いた空洞部分をくぐり、出口で納める胎内くぐりがおすすめです。
那智の滝は高さ133m、幅13m、滝つぼの深さが10mの滝。一の滝とも称され、その水量は毎秒1トンとも言われています。この一の滝の上流の近くに二の滝・三の滝がありますが、一の滝から三の滝までは国の名勝に指定されています。
大門坂は、全長約640m、267段の石畳敷の階段から成る道で、日本三大古道の1つに選ばれている場所。樹齢約800年の夫婦杉が門のようにそぎえたち、かつての熊野古道の姿を色濃く残した樹齢200年から300年の杉並木に囲まれた参道は「那智山旧参道の杉並木」として和歌山県の天然記念物に指定されています。
熊野三山を詣でる熊野古道には、中辺路・大辺路・小辺路・紀伊路・伊勢路という5つのルートがあります。
中辺路は、田辺から熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社を巡るルート。平安時代から鎌倉時代に皇族貴族が熊野を目指した「熊野御幸」の公式参詣道でした。熊野の御子神を祭った「王子」や遺跡が点在しているのが特徴です。
大辺路は、紀伊田辺から海沿いに那智勝浦町へ向かうルート。中辺路に比べて距離が長く、時間に余裕がある文人墨客をはじめ、西国巡礼を三十三回行う「三十三度行者」などが歩いた道でした。急坂や小坂が多いため、四十八坂とも称されています。
小辺路は、高野山から熊野三山を最短距離で結ぶ路で、「高野道」とも呼ばれていたルート。水ヶ峯・叔母子岳・三浦峠・果無峠など1000m級の山を超える最も険しい道となっています。
紀伊路は、大阪から紀伊田辺までの道。白鳥の関や和歌の浦など万葉集に詠まれた景勝地や紀三井寺や長保寺・道成寺といった由緒ある社寺などが点在しているルートです。舗装された場所が多いので、歩きやすいのもポイント。
三重県側にある伊勢路は、伊勢神宮から熊野三山へ通じる参詣道。江戸時代には、伊勢参宮から西国三十三か所巡りに向かう人たちが利用していました。熊野灘を一望できる峠や江戸時代の面影のある石畳、熊野川の参詣道などが魅力です。伊勢路は、花の窟神社のところから七里御浜を通って熊野速玉大社に向かう「浜街道」と内陸の山側を通って熊野本宮大社に向かう「本宮道」とに分かれています。
三重県御浜町は伊勢路の一部に位置する町。御浜町を通る熊野古道・伊勢路は横垣峠と風伝峠、浜街道の3つです。
横垣峠は、地殻変動の際にマグマが波紋状に固まった神木流紋岩が敷き詰められた石畳が魅力の路。弘法大師ゆかりの「水壺地蔵」や高さ5m・周囲25mの大岩の上に石灯籠が建てられた「亀島の石灯籠」などが見られます。東側には熊野灘の海を眺めながら歩くことができます。
海を一望できる峠の上からの風景や、みかん畑を通る御浜町ならではの風景など魅力が多く、体力に自信がある方にはおすすめのルートです。
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風伝峠は海辺と山村を結ぶ要路で、尾呂志地区で見られる「風伝おろし」が有名です。「風伝おろし」は、10月から3月にかけて、夜間と日中の気温差が大きい朝に見られるもの。山向こうで発生した霧が風にのって風伝峠を超え、山肌を多岐のように流れ落ちていく様子は壮観です。
横垣峠同様、2時間程度で歩けるので、初心者の方にもおすすめのルートです。
浜街道は、熊野市から和歌山県新宮市の熊野速玉大社を目指す道。約22㎞の砂礫海岸は日本の渚100選にも選ばれており、御浜小石とも呼ばれる玉砂利が敷き詰められたこの道も世界遺産に登録されています。
海を眺めながら、浜辺や堤防、林の遊歩道を歩けるこの道は、他の熊野古道とは一味違った歩きが楽しめます。
御浜町のみどころをご紹介してきましたが、お隣の熊野市の松本峠や鬼ヶ城、花の窟神社もすぐ足を延ばせる場所にあるおすすめスポット。それぞれの見どころを簡単にご紹介していきます。
松本峠は、伊勢から熊野に向かう参詣道、伊勢路の最後にある峠。熊野市の木本と大泊を結ぶ苔むした石畳が残る趣のある場所です。松本峠の頂上には、鉄砲で撃たれた跡の残るお地蔵さまが出迎えます。ここから木本登り口に向かうルートと鬼ヶ城城跡のルートの2手に分かれます。鬼ヶ城城跡ルートを進んだ先にある東屋からは、七里御浜海岸や熊野灘が一望できます。
鬼ヶ城は、地震による隆起と、波の浸食や風化によって作り出された大岩壁で、1935年には国の天然記念物に、そして、日本百景にも選ばれています。2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部としてユネスコの世界遺産に登録。鬼ヶ城の見どころは、上下2段の大きな岩窟である千畳敷。平安時代初期の征夷大将軍であった坂上田村麻呂に討ち取られた海賊「多娥丸」が根城にしていた場所といわれています。
花の窟神社は、日本書紀にも記述のあるイザナミノミコトを祭る神社です。季節の花を備えてお祀りしていたことからこの名前が付けられたとされています。社殿はなく、ご神体である高さ45mもある巨岩は直接触れることが可能です。
古の趣を残し、今なお多くの人が訪れる熊野古道を巡る際におすすめの宿泊地がフェアフィールド・バイ・マリオット・三重熊野古道みはまとMikan Hotel、そして、尾呂志庵です。それぞれの特徴をご紹介します。
浜街道:フェアフィールド・バイ・マリオット・三重熊野古道みはま
フェアフィールド・バイ・マリオット・三重熊野古道みはまは、熊野古道浜街道沿いにあるホテルです。2020年の秋にオープンしたホテルで、背後には紀伊山地、目の前には日本の渚百選の七里御浜を望むことができます。
御浜町の道の駅「パーク七里御浜」が隣にあり、季節の柑橘類や海の幸を堪能することができます。
本宮道:Mikan Hotel、尾呂志庵
Mikan Hotelは、御浜町尾呂志地区の休園となっていた保育園を改装した1日1組限定の宿泊施設。風伝峠や日本一の棚田とも言われる丸山千枚田などが近くにあります。
コワーキングスペースやカフェなどもあり、のんびり過ごすことも可能。秋から春にかけては、風伝おろしが見られる日もあります。
尾呂志庵は、熊野古道本宮道から小道を下った先にある御浜町の体験型ゲストハウスです。囲炉裏と五右衛門風呂があり、ゆっくりとした時間を過ごすことができます。希望に応じて、オーナーの仕込んだ自家製玄米麹を使用した味噌づくりなども体験できます。
KUMANO KODO (ISEJI South) / 熊野古道伊勢路(南)マップ(PDF)
熊野古道伊勢路を通しで歩く方に向けて作られたマップ。標高やルート上のトイレなど、詳しい情報が図を使って記載されています。表記は英語ですが、英語が苦手な方でも見やすいように作られた地図です。
世界遺産登録から20周年となり、イベントも各地で開催されている熊野古道。ぜひこの機会に、熊野古道歩きを楽しんでみてはいかがでしょうか。
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