高知から Iターン/40代/会社員/3人家族
牧野 太朗さん・佳代さん
「ここは、住みやすい。山奥にも入りやすいし、綺麗な川にもすぐ行けるし。都会から来て、田舎の暮らしを試してみたいっていう人には、すごい入りやすくておススメかな」
都会で生まれ育ち、田舎暮らし歴15年の夫婦はそう語る。
三重県御浜町・尾呂志地区に暮らす牧野さんご一家。太朗さん(43歳)、佳代さん(43歳)、娘の雫ちゃん(4歳)の3人暮らし。太朗さんは愛知県出身、佳代さんは東京都出身。お二人で高知県に移住し、13年間暮らしていた。2020年に高知を離れ、御浜町へ移住した。
「農業がしたい」という想いがあり、高知県では夫婦で有機農業を営み暮らしていた。都会育ちの2人は、なぜ田舎暮らしに興味を持ち、御浜へ移住してきたのだろう?
佳代さん「畑をやりたい、お米も作りたいっていうのが元々あって。大都会の中ではもう暮らしづらい、戻れないかなと。高知とはまた別の田舎に住んでみたいと思って移住先を探し始めました。母の実家がある沖縄や、四国の別の町も考えたり。熊野地域でも探していて、御浜町を選んだのは本当に運と縁とタイミングというか。家が見つかったのと、夫の仕事が見つかったのが大きかったです」
佳代さんは、東京都の中でも自然が多い場所で生まれ育った。畑や野山が身近にあり、川で泳いだり木に登って桑の実を食べたりしていたそう。母親が畑を借りていたこともあり、子供の頃から畑で野菜を作って食べるという生活が身近にあった。そして、のちに農業をはじめるきっかけとなる特別な原体験があった。「小学生の時に、修学旅行で秋田へ行って、班ごとに農家のお家にお世話になって。田植えして、野菜採ったりきのこ採ったりして。そこで出してもらった農家さんちのごはんがめちゃくちゃ美味しくて。農家ってこんなに美味しいもの食べてるんだって感動しました」
佳代さんが東京にいた頃は、女性が農業をやりたいと言えば、「農家に嫁に行け」と言われるような時代。そんな中、八王子で有機農業を営む女性と知り合ったのをきっかけに、神奈川にある農場へ研修を受けに行くように。そこで「私でも農業ができるかも」という予感がしたという。高知県に移住後は、夫婦で有機農業で生計を立てることになった。太朗さん「当時有機農業を勉強できる所って本当に少なくて。高知で1か所だけあったんで、そこで1年間研修を受けて、そのまま就農しました」
太朗さんは現在、隣町の熊野市にある学童保育で農場担当として働いている。
太朗さん「大学から東京に出て、非常勤で横浜の高校の教員をやってました。今は学童と農場を並行してやってるんで、そこで先生をやっていた経験が活きてるのかな。高知にいた頃は、自分の生活のために野菜を売らなければ収入がなかったんですけど、今はそうじゃない。その辺のプレッシャーは無くなって、かなり気楽になりました」
移住前の家探しでは、移住の相談窓口である「御浜町 移住・交流サポートデスク ここテラス」に相談した牧野さんご一家。ここテラスは、尾呂志地区を中心に御浜町内の空き家情報などを提供しており、移住に関する相談をすることができる。また、定住後も相談に乗ってくれるので、移住者にとって心強い存在だ。
佳代さん「尾呂志には、やっぱりここテラスがあるのが大きいと思います。家探し中はスタッフの方が子供と遊んでくれて、集中して大家さんの話を聞けたので助かりました。定住後には『子供連れで行ける美容院はある?』『買い物はどこですればいい?』といった些細な質問ができるのも有難いです。ご近所さんは地元の人も、外から来た人も優しい人が多いです。違った価値観をそのままに、いい具合に放っておいてくれるのがとても居心地がいい。『おはよう』とか『寒かったね』とか声をかけてくれたり、ついでに野菜をくれたりして、ありがたいです」
近年、尾呂志地区には移住者が増えており、移住者同士のコミュニケーションも生まれやすい環境だ。知らない土地でも、安心してコミュニティに入りやすい。近すぎず遠すぎない、程よい距離感のご近所づきあいが、とても心地良いそう。
御浜町は、海にも山にも恵まれている。牧野さん一家が暮らす尾呂志地区には、世界遺産・熊野古道の風伝峠の登り口があり、かつて熊野の海と山間部を結ぶ要路だった。暮らしの中に自然が息づいている開放感のある環境は、子育てにもぴったり。
佳代さん「夫の職場に雫と同い年の子がいて、遊んだりとか。保育園に併設されてる子育て支援室に時々行って、子供たちと触れ合ったり。職員の方も子育ての相談を聞いてくれるので、話しやすいです。尾呂志には近所に子供が結構いるから、ほっとします」
尾呂志地区には、地域に開かれたコミュニティスクール「尾呂志学園」があることも魅力の一つだという。小さな子供から年配の方まで誰でも参加できる運動会などの行事があり、地域の人が一緒になって子供を育む文化が根付いている。「いずれは雫も学園に通わせたいです」と佳代さんは話す。
太朗さん&佳代さん「ここでの暮らしは、”ちょうどいい”って感じかな。身の丈に合ってると思います」
家のすぐ近くに小さな畑を借りて、自分たちで食べる分の野菜を作っている牧野さんご夫婦。1年前から、お米も作り始めたそうだ。高知県で農業を営んでいた頃は、作った野菜を詰めた野菜BOXを関東へ送って販売していた。佳代さん「がつがつとした働き方でなくても、御浜町でも農業をできたらいいなと思っています。コロナのせいもあるのか、やっぱり宅配の野菜が欲しいっていう人もいて。またやりたいな、と思いながら子供がまだ小さいのを言い訳に、まだできていなくて…(苦笑)」
都会から田舎を経て、また別の田舎へ。牧野さん一家の御浜暮らしは、まだ始まったばかり。これからどんな物語が続いていくのか、楽しみだ。
(2022年2月取材 文・益田 奈央)
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