移住先での暮らし
三重県御浜町には「いもたばり」という季節行事がある。
十五夜の夕方から夜にかけて、子供達が町中を練り歩く。歩道には、普段は見かけないたくさんの子供たちの姿…一体何があるのか。
「たばらして〜」とお家の人に声をかけながら、軒下に置いてあるお供物を頂戴していく子供たち。
「たばらして」とは?
日本では、昔から月は神聖なものと考えられてきた。古くは縄文時代から、人々は月を愛でていたと言われている。
現代のお月見の元となる風習が始まったのは平安時代で、この時代に中国から秋に月を鑑賞する文化が貴族社会に入ってきた。そして庶民にお月見文化が浸透したのは、江戸時代。お月見をする秋は、庶民にとっては収穫の季節でもあったことから、月を鑑賞しながら農作物の収穫に感謝を伝えるお月見の風習が誕生した。
十五夜は、別名「中秋の名月」とも呼ばれ、秋の真ん中の日である旧暦の8月15日にあたる。現在の新暦と旧暦では1ヶ月〜2ヶ月のずれがあり、「9月7日〜10月8日の間の1日」が「十五夜」となる。
代々、御浜町内の農家の家々は、この日農作物の収穫に感謝を込めて月を拝み、団子やススキと共に農作物をお供えしてきた。家で取れた芋、柿、栗、米などがお供えされ、それを近所の子供たちが「たばらしてよ〜」と、頂戴していく。
「たばる」とは、御浜をはじめこの地域にある方言で、神仏へお供えしたものをたばる(=下げ、頂く)こと。
現在70代の御浜町生まれ御浜町育ちの男性は、子供の頃を振り返り、こう語る。
「いもたばりの日は、友達と集まって家の近くを回ってさ。夜だから真っ暗だし、当時は懐中電灯も持っていなかったんじゃないかな。だから田んぼに落っこちたこともあったよ。」
そして、(お供えの御神酒をこっそり呼ばれたりね、子供だからへろへろになって。でもそれが毎年楽しみだったんだよね〜)とこっそり教えてくれた。
ちなみに、御浜町内でも漁師町であった阿田和地区では「いもたばり」はほぼやっていないという。山間部、そして平野部の農業が盛んな地区で、この風習がみられる。地域によって呼び名も「いもたばり」「たばらして」とそれぞれだ。
古き良き季節行事であった「いもたばり」だが、今から50年ほど前から少しずつ様相が変わってきている。
以前は、各家々ではお金をかけるのではなく、自分たちの作った農作物をお供えしていた。それが今ではチョコレートやスナック菓子に姿を変えている。大人たちは子供達が喜んでもらっていってくれるようにと気遣いから始めたが、それが発展し、スーパーには「たばらして」用のお菓子コーナーができるほどだ。
子供にとっては、1晩でたくさんのお菓子をもらえるなんともありがたい行事となっていて、古き良き時代を知っている世代の方は「時代の流れだね」と少し寂しげに語る。
それでも、「都会に住む娘が孫を連れて「いもたばり」の時に帰省してくるんだ」と嬉しそうに話す人もいる。ふるさとの懐かしい行事。自分の子供にも体験してほしいとの想いから、わざわざ里帰りをするだそうだ。
昔は芋や栗が嬉しかった時代から、お菓子が喜ばれる時代へ。時代の流れは変えられないが、この日は大人も子供も心温まる一夜に変わりはない。
移住されてきた方も、軒先にお供物とライトを出しておけば、子供達が立ち寄ってくれるだろう。どのような供物を、どれくらい用意したらいいか、地域の先輩に聞いてみるといいだろう。
初めてのときは、本当にもらっていってくれるのだろうかとドキドキするものだが、地域に根付く風習に思いを馳せ、また実りの秋に感謝を込めて、参加されてみてはどうだろうか。
そして移住してきた子供たちも、ぜひ学校や近所の子供たちと一緒に地域を回って「たばらして」みたら、楽しい思い出になるはず。
地域に残る、独自の風習。
子供も大人も、そわそわ、ワクワク。
2024年は、9月17日(火)が「十五夜」。
くれぐれも交通安全に気をつけて、今年の十五夜も秋の恵に感謝をし、楽しいひと時を。
都会も良いけど、自然豊かな田舎暮らしもいいかも。御浜町に移住するって、どんなだろう。気になった方は、こちらから。
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御浜町出身/30代/会社員/家族5人